中高年講座

1998(平成10)年10月8日
西宮市立春風公民館
中高年講座:高齢者の腰痛と骨粗鬆症


はじめに
 この度は、この様な講演の機会を与えて下さり、有り難うございます。 私は大阪市出身でありますが、母が生まれ、祖父や叔母が住んでおりましたこの西宮で本年4月より開業致しております。この春風公民館でのお話が参りまして、はじめは場所がわからないでいましたが、地図をよくみてみますと、幼い頃祖父母の住んでいました久寿川や従姉妹達がいましたこの春風町へ足を運んでいたことがわかりました。先日叔母に電話して聞いてみましたところ、従姉妹達は春風小学校に通 っていたということで、何か因縁めいたものを感じながら、参りました次第です。 本日は拙い話ですが、宜しくおつきあい下さい。


 痛そう!今までにも自分もこんな経験があると思われた方も多いことでしょう。腰痛は、直立二足歩行をする人間にとって避けがたい苦痛で、成人の60−90%は生涯に複数回腰痛を経験しています。産業医としての視点からは、運輸業や建設業の方に腰痛が多くみられるわけですが、最近ではそういった仕事に限らず多種多様な職種で腰痛は起こりますし、家庭内でもよくみられます。

講演内容
■ 腰痛の原因
■ 腰痛の治療と悪化防止
■ 骨粗鬆症
■ 骨粗鬆症の予防と治療

さて、本日お話しする内容は、スライドの如くで、順次話を進めて参りたいと思います。

 これは私の腰椎のレントゲン写真ですが、学生時代授業をさぼってテニスをしていた報いで、私も腰痛持ちでありまして、疲れてくると腰痛、そしてお腹の調子までおかしくなってきます。
 レントゲンの所見は腰椎の1−3番の間隙が狭く、4−5番の間が逆に開きすぎています。

↑腰椎レントゲン−1

 また、側面像ではL1がちびっており、加齢現象としてのspiculaが所々にみられます。
↑腰椎レントゲン−2

 それでは、腰痛の原因ついてお話ししてゆきますが、その前に基礎的な知識を持っていただいた方が後の話がわかりやすいと思いますので、基礎講座から始めます。

 脊柱とは、脊椎骨の集まった柱で、図のように脊柱は頸椎7こ、胸椎12こ、腰椎5こ、そして仙椎から構成され、体の支柱としてバランスを保っています。そして、頸椎と腰椎は前わん、胸椎と仙椎は後わんしており、全体としてS字状をなしてしなやかさを作り出しています。
 この脊椎に筋肉や人体が付着し、各脊椎の間には椎間板が存在し、これらの相互作用により身体の屈曲、ひねりなどが行われています。

↑脊柱の生理的わん曲

 たとえば、屈曲・伸展位に、それらがどのような動きをしているかをみてみましょう。図では、それぞれの姿勢で椎骨と筋肉・靱帯の関係が示されていますが、この様に椎骨の間隙、筋肉・靱帯の伸展(のび)と弛緩(ゆるみ)が変化して屈曲・伸展を可能ならしめています。

 腰痛の症状が出る場合の一例をみてみますと、そり腰と呼ばれる腰椎の前わんの増大があると、この様に神経を圧迫して、痛みを生じます。
  年をとってくると、骨がすり減り、筋肉は伸びちじみが弱くなり、靱帯も弱くなり、総合的な身体の動きが鈍り、瞬発力や強度の低下がみられます。従って、急性の腰痛も起こしやすく、また変性による慢性の痛みも生じてきます。

↑病態図

それでは、腰痛の原因となるものをみてゆきます。
 腰痛の原因を列挙してみますと、この様に多種多様であります。この中でも、高齢者の腰痛の原因となる主なものを挙げてみますと、VIの変形性脊椎性(腰椎症)、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、IVの骨粗鬆症、IIIの腰部打撲・捻挫・圧迫骨折などがありますが、ここで忘れてはならないものは、IIの2の転移性骨腫瘍であり、男性の場合は前立腺ガン、女性の場合は乳癌で高頻度に起こります。
  腰痛であちこちの病・医院にかかっては治療を続けず、検査も受けなかったために、発見が遅れて死亡した20歳の直腸ガン患者の例!

↑腰痛の原因

 余談でしたが、これら以外にも脊椎の側わん症からくる腰痛もあります。 この表にはあまり多すぎて見るのも嫌になりますので、まとめてわかりやすくしたのがつぎのスライドです。
 脊椎の異常や姿勢の他にも、内臓疾患や心理的要因からも腰痛が起こることがありますので、勝手な自己判断は危険です。

次に、骨、筋肉、軟部組織に起因する腰痛を原因別にマンガで紹介します。

↑腰痛の原因

 では、いくつかの疾患がどのようになって腰痛を引き起こしているか図で説明します。
↑腰痛をきたす疾患例

1)腰椎椎間板ヘルニア、2)変形性腰椎症、3)腰椎すべり症、そして側わん症のレントゲン写 真をお見せします。(男性、女性各1名)

 次に、腰痛の治療と悪化防止についてお話しします。
 先ほど、腰痛の原因をなる疾患を列挙しましたが、日常生活において、動作や姿勢から生じる腰痛の原因を見てみますと、このようになります。こうした腰痛は、日頃邪魔くさがらず、ずぼらをしないことで防止することができます。

↑日常生活における腰痛の原因

 次に、腰痛の治療ですが、急性期には何よりも局所の安静ですが、仕事や日常生活のため、寝ていられないというのが大半です。従って、痛みを抑えるため、薬の服用や冷湿布、もう少し痛みの強い場合、トリガーポイントブロックという注射によって痛みを和らげる方法もあります。また、坐薬が有効なことも往々にあります。
 次いで、慢性気に入りますと、牽引、低周波、マイクロ、ホットパックといった理学的療法があり、これらの組み合わせや温湿布を併用することで症状の緩和が図れます。
 しかし、同時に必要なのはリハビリで、痛めた筋肉や靱帯の柔軟性を取り戻してやることが必要です。また、痛めた部位 によっては反対側に負担をかけ、新たに痛みを作り出すこともありますので、身体全体のバランスを保てるように配慮した運動療法が肝要です。特に、高齢者では、骨の変形や骨粗鬆症等により、長年月をかけて筋肉や靱帯が弱まってきたのですから、短期間の運動で事足りるという考えは誤っています。高齢者ほど持続性が必要になります。また、痛みのあったところですから、はじめから強い運動も避けなければならず、徐々に強化してゆく必要もあります。
 治療に時間を要する腰痛、治りにくい腰痛に対し、往々にして針、灸、マッサージ、カイロプラスチックなどの民間療法へ走る方がおられます。確かに効果 の見られる場合もあるのですが、、強い力を加えることにより、逆に症状を悪化させてクリニックに戻ってこられる方もよくみかけます。
 長年かかってすり減り、曲がった骨を、周辺の筋肉や靱帯を損傷させずに、ヒトの力で元に戻すということが本当に可能かどうか考えてみて下さい。かといって、私はこういったものを否定しているわけではなく、医者との相談、協力の上で行われればよいのですが、多くの場合、一人歩きしてしまっているので困ってしまうことがあるのです。
 逆に、‘手当て’という言葉がありますが、医者側で機械に頼り、患者さんとの対話もなく、患部の経過を診ることすら怠る者がいるため、患者さんが民間療法に走ってしまうということは認識し、反省すべき点であると考えます。


 では、次に、骨粗鬆症の話に移って行きたいと思います。
さて、本日お話しする内容は、スライドの如くで、順次話を進めて参りたいと思います。
骨粗鬆症
■ 骨粗鬆症とは?
■ 骨粗鬆症がなぜ問題か?
■ 骨粗鬆症のしくみ
■ 骨粗鬆症の診断
■ 骨粗鬆症の予防と治療
ガイドラインの定義
骨塩量が減少し、骨微細構造の劣化により骨強度が低下し、骨折を起こしやすくなった全身的疾患。

わかりやすく説明しますと、骨が粗になって、鬆が入った状態。つまり、すかすかになってくる状態です。英語ではOsteoporosisというのですが、osteoは骨、poroは穴のあいた状態、sisは疾病を表し、全体で骨に穴のあいた病的状態ということになります。

 骨粗鬆の写真 では、どういう状態かみてみましょう。右図のようにいかにも“す”の入った様子がおわかり頂けると思います。
 骨粗鬆症の疫学 骨粗鬆症がなぜ問題になるかといいますと、骨粗鬆症の患者数は1990年には500万人ですが、2000年には1200万人になると予想されており、寝たきり老人の数も100万人になると予想されています。寝たきりになる原因ですが、脳血管障害による麻痺などが圧倒的に多いのですが、大腿骨頸部骨折が20%をしめ、この患者数が、1987年の5.3万人から1992年には7.7万人と5年間の間に2.4万人も増加しており、この増加傾向が続いているため、今後ますます大腿骨頸部骨折による寝たきり老人が増えるだろうと考えられているためであります。
 高齢化社会、少子化社会といわれる時代になってきていますが、自分の死ぬ時期がわかっていて、その直前に骨折して寝たきりになるのならば、これも運命だろうと諦めもつきますが、10−20年と余命を残しながら寝たきりになってしまうことは、本人にとってもつらく、情けないことでありますし、家族にとっては負担が重くのしかかります。
 こうした骨折を予防し、その骨折のベースとなる骨粗鬆症に対しては、予防や治療法があり、先ほどの脊柱の変形や側わんによる腰痛治療とはニュアンスが異なります。

 では、骨粗鬆症がどれくらいの頻度で起こるのかを性別、年齢別にみてみますと、男性では80歳になると、急激に増加しますが、それでも50%に至りません。ところが、女性では、60歳代から急増し、年を重ねるにつれ、増加してゆきます。65歳頃には50%を越えてしまいます。つまり、骨粗鬆症は閉経後の女性に多いということができます。もちろん、男性には骨粗鬆症はないわけではありませんで、女性に比べれば少ないということであります。

↑発症率

 骨粗鬆症の原因別分類をお示しします。 この中で特に問題となるのは、老人性、そして閉経後の骨粗鬆症であります。 では、骨粗鬆症の病態は何かと申しますと、骨の吸収が増加している状態であります。
 骨というものはどうなっているかと言いますと、常に一部が壊され(吸収)、また、修復される(形成)ということが繰り返されています。すなわち、破骨細胞が吸収して骨を削り、その後骨芽細胞が骨を形成し埋めて行くわけです。

 成長期から成人期にかけて骨は成長しますが、これは、骨端線と呼ばれる所の成長軟骨の働きで骨がどんどん大きくなってゆきます。その後骨端線が閉じて骨の成長が止まりますが、同時に骨の形成が吸収を上回り、急速に骨の密度が増して、ピークボーンマスの状態に達します。これが大体思春期から20歳位 までにおこり、その後40歳頃までは骨の吸収と形成のバランスが釣り合っていて、ほとんど骨の量 は減りません。しかし、それから後は骨ができる(形成)速度と壊れる(吸収)速度のバランスが崩れ、骨の吸収の方が大きくなり、骨の量 が減っていくわけです。
 ここで注意して頂きたいのは、男性に比べ女性の場合、50歳前から急に骨量が減少している点です。これは、閉経によるエストロジェンの減少のため、閉経後7−10年の間に急速に骨量 が減少するためです。そして、このラインは平均を示していますが、70歳頃になりますと、その年齢の平均的な値をとる方でも骨粗鬆症の範囲に入っていまいます。

↑加齢による骨量変化


 では、閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症のしくみをみてゆきましょう。
 まず、閉経後骨粗鬆症ですが、女性の場合、閉経後には卵巣から出る女性ホルモンのエストロジェンの供給がストップし、エストロジェン欠乏状態が発生します。これにより、7−10年以内に急速な骨量 の低下が起こってきて、骨粗鬆症へと進んで行きます。
↑閉経後骨粗鬆症のしくみ
 では、エストロジェンは骨に対してどの様な働きをしているのでしょうか?
 エストロジェンは間接的に、破骨細胞の形成や働きを弱め、骨吸収を抑えています。また、エストロジェンは、骨芽細胞から分泌される骨の形成促進因子の分泌を高めて、骨形成を促しています。従って、エストロジェンが欠乏した状態になると、図のような現象が起こり、その結果、急速な骨量の減少が見られるようになります。

エストロジェンは骨に対する働きの他に、女性らしさや女性特有の機能を発揮するのに働き、また、コレステロールの上昇を抑えてくれています。従って閉経後にはコレステロールの値が上がってきます。
女性ホルモン(エストロゲン)の働き
■ 女性の子宮、卵巣、膣、乳房などの生殖器の発育をうながす
■ 女性の性器を細菌から守ったり、妊娠しやすくさせる
■ 子宮の内膜を着床に備え増殖させる
■ 排卵直後に増えて排卵をうながす
■ 肌のはり、性格、身長、声に影響を与える
■ 膣粘膜の萎縮を防ぎ、バルトリン腺液の分泌を促す
■ エストロゲンには、コレステロール調節機能があり、不足してくるとコレステロールが増える
■ 骨の代謝で骨の吸収をおさえる

 次に、老人性骨粗鬆症のしくみをみていきましょう。 まず、骨の形成に関しては、加齢に伴い成長因子の合成や分泌が低下し、また、この様な因子に対する骨芽細胞の反応も落ち、骨形成が低下します。
 骨の吸収に関しては、骨と関係の深い副甲状腺ホルモンをいうのがあり、これは腎臓と骨に作用します。腎臓では、ビタミンDの活性化を行い、腎から尿中へのカルシウムの排泄を抑制しています。骨では、骨からのカルシウムの動員を調節しています。

↑老人性骨粗鬆症のしくみ
 この副甲状腺ホルモンに対する反応、特に、腎臓での反応が加齢と共に落ち、ビタミンDの活性化が低下してしまいます。そうすると、尿中へカルシウムの排泄が増し、また、腸からのカルシウムの吸収が減少して、カルシウム欠乏をきたします。その結果 、血中のカルシウムを保つために、副甲状腺ホルモンの分泌が増加して、骨からカルシウムを動員しようとし、骨量 を減らして行くことになります。

 従来はレントゲンの単純写真で推定していましたが、現在では、レントゲンを使って骨塩量 を測定することが出来るようになり、種々の方法が用いられています。 測定部位は腰椎や手の骨で、これらを撮影することによって、骨塩量を測定します。この骨塩量が落ちれば骨折しやすくなると考えてもらって結構です。
骨量の診断法
1.X線像による方法
1) 骨濃影度の変化
肉眼時判定、アルミニウム step wedge の利用、densitometer による計測など
2) 骨梁の変化
椎体による方法(慈恵医大式分類)
大腿骨頚部による方法(Singh の分類)
3) 骨計測法
中手骨指数とその変法(Nordin,Morgan,Garn,Grufe,Dequeker,井上ら)、橈骨指数、大腿骨指数、椎体指数など
2.Photon absorptiometry
3.骨音波共振振動数測定法
4.CT scan の利用
5.中性子の応用
6.骨の biopsy

ここで、骨粗鬆症の方の例を男女一名ずつお見せしますが、注意していただきたいのは、先ほども述べましたように男性と女性で大きな差があるということです。 また、男性でもこれくらいの骨粗鬆の方がおられます。ちなみに、この方は現在70歳ですが、若い頃はバリバリのスポーツマンでした。

↑骨粗鬆症検査結果

 さて、最後に骨粗鬆症の予防と治療へと話を進めて参ります。 骨粗鬆症の予防には、食事、日光浴、運動などバランスがうまく取れて行うことが必要です。骨粗鬆症の方には、これらと共に薬を加えた治療が必要になってきますし、骨折予防のため、転倒防止に注意しなければなりません。
 骨粗鬆症は今まで見てきましたように、骨の吸収によって起こるものですから、これを防止すればよいわけです。しかし、加齢による変化は避けられないものですから、ホルモンなどの変化を制御することは困難です。
 しかし、カルシウムをしっかり取り、ビタミンDが活性化される環境を作ってやれば、老後を元気に送ることが出来ます。

 まずは、皆さん常識となっているカルシウム摂取の問題です。骨と言えばカルシウムと返ってきますが、各栄養素の所要量 を100としますと、カルシウムだけが所要量に達していません。そして、カルシウムだけが、戦後一度も所要量 が満たされたことのない栄養素であります。

↑各栄養素の摂取量

 カルシウム摂取の年次推移を見てみますと、戦後、摂取量は上昇してきましたが、それでもせいぜい、1日500−600 mgまでで、厚生省による所要量の600mgに達していません。従って、まだまだ意識してカルシウムを摂取する必要があります。
↑カルシウム摂取の年次推移
 ミルクやヨーグルト、チーズといった乳製品はカルシウムが吸収されやすいのですが、吸収率は50%以上です。日本人の場合これまで旧製品の摂取量 が少なく、野菜や海藻からカルシウムを摂ってきました。しかし、野菜などに含まれるカルシウムの吸収率は約20%以下と、乳製品にはかないません。
 先ほど厚生省のカルシウム所要量が600mgと言いましたが、この数字は戦後50年間維持されてきた数字で、現在アメリカでは1000−1500mgを目標にしています。現在の日本の老齢者や閉経後の方の所要量 は800mgと考えられています。
 では、これまでの摂取量に乳製品を加えて、800mg以上にするにはどうするか?毎日コップ一杯のミルク(200mg)と、チーズ二切れ(200mg)またはヨーグルトカップ一杯(200mg)を摂ればよいとされています。

 次いで、ビタミンDの摂取と活性化です。 ビタミンでゃ、皮膚で作られるものと、食品から摂られるものとがあります。 皮膚からのビタミンDは、太陽の紫外線に当たることによって作られますので、一日に1−2時間、顔や手が十分日光に当たっているだけでもビタミンDが供給されます。従って、日光浴−太陽の出ている時間の散歩などが大切です。
 食品からのビタミンDの補給は、やはり魚が一番です。週に二回、切り身を100g程度食べるだけで良いそうです。カルシウム摂取に有効な乳製品にビタミンDが多く含まれていれば一石二鳥なのですが、この乳製品や肉類に以外とビタミンDの少ないことに気がつきます。

↑ビタミンDの摂取と活性化

 日光に当たって、栄養素を注意していれば大丈夫かというと、もう一つ大切な要因があります。それは、適度の運動です。
 閉経後の女性が、一日一時間の運動を、週3回した場合と、しなかった場合とで骨のカルシウム量 がどう変わるかをみたものですが、運動していない群では、カルシウム量は減少しますが、運動をしている群では逆に増えています。
 運動をすれば、骨に刺激が与えられ、骨の強度の低下を防いでくれます。また、筋肉や関節の柔軟性を高め、転倒予防に繋がります。
 では、具体的にどういった運動がよいかと言うと、皆さんの中には実行されている方も多くおられるかもしれませんが、有酸素運動と言われれる運動が勧められます。即ち、運動中に取り込んだ酸素から作られるエネルギーだけを用いて行う運動で、歩いたり、軽いジョギング、水泳、自転車、体操など、汗が出るか出ない程のものです。 歩行を例に目安を言ってみますと、50−60歳代の方で、一日朝夕二回で約8000歩位です。

↑運動と骨のカルシウム量

 次に、骨粗鬆症の方の治療についてお話しします。
 今述べてきました予防策は当然のことながらベースとして必要です。
 まず、閉経後骨粗鬆症から述べて行きますと、これは女性ホルモンのエストロジェンの欠乏に伴って起こってくるわけですから、これを補充するのが最も手っ取り早い訳です。しかし、この療法にはメリットもある反面 、問題点もあります。先ほどエストロジェンの働きで見ましたように、エストロジェンには更年期障害を軽減する他に、骨塩の減少を防止し、コレステロールを低下させて、虚血性心疾患を防止します。しかしながら、煩わしい性器出血がおこり、子宮内膜癌や乳癌のリスクが高まります。
エストロゲン療法のメリット&デメリット
<メリット>
■ 骨塩減少の防止→骨折率の低下
■ 更年期障害の軽減
■ コレステロールを低下
■ 虚血性心疾患を防止
<デメリット>
■ 性器出血
■ 子宮内膜癌
■ 乳癌

 骨粗鬆症は骨の吸収が亢進するために起こりますので、この骨吸収を抑制するようなお薬があればよいわけです。老人性骨粗鬆症に対しても併せて治療薬を見ていきたいと思います。
 骨吸収を抑制するお薬として、カルシトニンがあります。カルシトニンは破骨細胞に働いて、骨の吸収を直接抑えます。また、これには腰痛を抑える鎮痛作用があります。カルシトニンによる治療は、週に1−2度通 院して、注射をしてもらいます。
 さらに、現在では強力な骨吸収抑制剤であるビスフォスフォネートというお薬があります。これは、骨の表面 にくっついて、破骨細胞の機能を抑制して、骨吸収されなくしてしまいます。現在一種類のみ販売されていますが、今後長期間投与の安全性について確認が必要です。ちなみに、ある種のビスフォスフォネートは乳癌の骨転移の治療薬として用いられています。

↑骨粗鬆症の治療
 次に、活性型ビタミンD製剤ですが、これは腸管からのカルシウム吸収を増し、骨からの骨吸収を抑制することで骨塩の低下を防止します。従って、カルシウム不足が主体となる老年者の骨粗鬆症に適しています。
 次に、ビタミンK製剤ですが、これは骨形成と骨吸収の両者に作用し、骨形成を促進すると共に、骨吸収抑制作用を持っています。どちらかと言えば、骨形成促進を支持する方が強く、我が国では一製剤のみ出ています。ビタミンKの吸収には胆汁酸が必要ですので、必ず食後に服用しなければならず、血液凝固との関係で、ワーファリンという心臓病薬を服用している患者さんには使えません。
 その他、ホルモン製剤がありますが、臨床的なし世は今後の課題であります。 それから当然のことながら、カルシウム製剤がありますが、これは、カルシウムの十分な摂取の困難な方に対して用いられ、単独ではなく、他の治療薬と併用して用いられます。カルシウムの摂りすぎで何らかの症状が起こることは希でありますが、個人の吸収量を上回る投与では、便秘を来します。また、市販のカルシウム剤にはビタミンDを含んでいるものもあり、漫然と服用し続けていると、高カルシウム血症となって、逆に病気を作り出してしまいます。

 今回の講演の最後に、骨粗鬆症患者の骨折について述べておきます。最初に申し上げましたように、骨粗鬆症の最も問題となる所は、高齢者の骨折とそれによる寝たきり状態であります。
 では、骨折はどんな部位で起こりやすいかと言いますと、身体を支える椎体では、胸椎や腰椎に起こります。そんな時、椎体はどんな形に変形しているかと言いますと、喫状、扁平状、魚状と呼ばれる状態になっており、圧迫骨折を起こします。
 胸・腰椎の他に、転倒して手をついたときに生じる前腕の骨折や上腕骨の骨折が多く見られます。そして、最も問題となり、寝たきり老人になりやすい大腿骨頸部骨折があります。

↑骨折しやすい場所
これらは、高齢者ほど多くなるのですが、これらの骨折が起こるところは、意外と普段慣れているところが多く、居住場所、しかも居室での転倒が群を抜いています。 ちょっと座布団につまずいたり、階段で最後の一段を踏み外したり、玄関で足下の段差につまずいたり、ごく些細なことで転倒し、骨折が起こっています。 従って、転倒しないように注意する必要がありますが、多少つまずいても、容易に折れない骨を維持しておくことが大切です。 以上で私の講演を終わります。